第498話 日本人にとってのコメの存在意義:過去・現在・未来

日本食糧新聞食の総合コンサルタント 小倉朋子氏が記事を載せていましたので要約してご紹介します

 

今年の夏、日本の小売店からコメが消え、多くの消費者が複数の店舗を巡り歩く事態が発生しました。日本は先進国の中でエネルギーベースの食料自給率が40%を切る唯一の国である一方、コメは国内でほぼ100%生産されている珍しい食材です。これほどの品不足が起きるとは、多くの人が予想していなかったことでしょう。政府の備蓄米の放出や新米の出荷状況についてメディアで取り上げられ、日本の主食であるコメの重要性が改めて浮き彫りとなりました。

 

2024年夏のコメ不足の背景

コメが品薄になった原因として、異常気象や気候変動、インバウンド需要の増加、外食産業の伸び、さらに南海トラフ地震や台風への備蓄需要の影響が挙げられます。実際、スーパーマーケットやコンビニエンスストアの棚が空になる日も多く、パックご飯も安価な商品から順に売り切れていきました。幼稚園や学校などの施設でも、コメの調達に苦労していたと言われています。小麦アレルギーの人にとっては特に深刻で、通販サイトでもコメが売り切れ、ふるさと納税の返礼品として提供されるコメも多くの自治体で欠品が続きました。

 

日本の食生活と代替品の存在

コメが不足する状況の中、多くの人々が麺類で代替するなど、日本人は完全に困り果てているわけではないようです。パンや麺など小麦製品が現代の日本の食生活に深く浸透しているからです。一方、昔はコメの代替品として食べられていた芋類については、ほとんど代替の声が上がらず、現代では主食としてのイメージが薄れていることが伺えます。

 

外食産業への影響

外食産業でも、寿司屋やおにぎり店、丼もの専門店などコメを主軸とする店が苦戦を強いられました。「ご飯お替わり無料」を提供する店では、ご飯の量を減らすなどの対応が目立ちました。コメ市場は小麦に比べて安定していると言われていただけに、今年の夏の出来事は予想外のものでした。

 

コメへの安心感とその盲点

コメは日本での食料自給率がほぼ100%に近いですが、深刻な食糧難に陥った場合、国民全員が毎日必要とする量を生産できていないという現実もあります。これは、現代の食生活がパンや麺などの多様な食品と共存する形で成り立っているためです。日本人の多くが「コメはいつでもある」と漠然とした安心感を持っていますが、このような品不足を機に、その意識を見直す必要があるかもしれません。

 

日本人とコメの歴史的なつながり

コメは日本にとって、食料としてだけでなく、衣食住すべてに関わる重要なものでした。かつては通貨の代わりとされ、神聖なものとして神様に捧げられる存在でもあったのです。そのため農業は敬われ、ご飯を粗末にすることは「罰が当たる」とまで言われていました。しかし、現代では天候に左右される厳しい労働であるため、農業に従事する人々の減少が続いています。

 

今後のコメ市場の展望

日本のコメは、為替の影響で海外市場においても価格競争力を持ち始めています。また、外国人が日本のコメの独自性に気づき、海外での需要も高まりつつあります。そのため、国内供給から海外輸出へシフトする農家も増加しています。大学生の調査によると、一人暮らしの学生の約7割が炊飯器を使わず、レンジ対応のパックご飯を食べているという結果も出ており、コメの消費スタイルも変化しています。

パンや麺類など選択肢が増えた現代ですが、世界の食料事情は変わりつつあり、日本のコメ市場も今後さらに変化する可能性があります。農業を尊び、世界的にも評価されるおいしいコメを食べられることに感謝し続けることが、コメの価格安定と市場の健全化につながるのかもしれません。

 

 

 

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