第596話 買収後1年半で7店舗から18店舗へ――外食M&Aは「買った後」で決まる

外食企業のM&Aというと、「何店舗を取得したのか」「売上がいくら増えるのか」に注目が集まりがちです。しかし、M&Aで本当に買うべきものは、現在ある店舗そのものではありません。買収後に店舗を増やせる可能性を持った「ブランド」と、その可能性を実現できる事業基盤です。

ホットランドホールディングスは、2025年1月、和歌山県を中心に展開していた「厚切りとんかつ よし平」を取得しました。取得時は7店舗でしたが、その後約1年半で18店舗まで拡大し、2026年8月5日には東京都心初となる渋谷店を開業すると報じられています。

この事例から学ぶべきなのは、単に「買収して店舗数を増やした」ということではありません。重要なのは、地域で支持されてきたブランドに、買い手企業が持つ出店開発、仕入れ、人材採用、教育、数値管理などの本部機能を組み合わせた点です。

M&Aで取得できるもの、できないもの

M&Aによって、屋号、商品、レシピ、既存店舗、従業員、顧客からの信用などは取得できます。しかし、それだけで多店舗展開が成功するわけではありません。

地域の繁盛店には、創業者の目利きや調理技術、長年の取引関係、常連客との関係など、帳簿やマニュアルには表れにくい強みがあります。買収後に効率化を急ぎ、こうした価値まで変えてしまえば、ブランドの魅力を失う可能性があります。

一方、従来の運営方法をすべて残したままでは、店舗を増やすことは困難です。仕入れの標準化、店舗運営マニュアル、店長育成、出店基準、管理会計など、チェーンとして必要な仕組みは整えなければなりません。

つまりM&A後の経営では、「何を残し、何を変えるか」の見極めが重要になります。

店舗数の増加だけでは成功といえない

よし平が7店舗から18店舗へ増えたことは事実です。ただし、既存店売上や新店の営業利益、投資回収期間などは、公開情報だけでは確認できません。そのため、店舗数の増加だけをもってM&Aが成功したと断定することはできません。

多店舗化で確認すべきなのは、出店数だけではなく、1店舗当たりの収益性、店長の育成期間、標準的な投資額、投資回収期間、既存店への影響です。出店速度が人材育成を上回れば、店舗が増えるほど運営品質が低下する可能性もあります。

これは中小チェーンにとって、特に重要な視点です。資金を用意して店舗を買うことはできても、買収後の経営を担う店長、SV、本部人材まで同時に手に入るとは限らないからです。

買収前に「増やせる条件」を確認する

買収候補を評価するときは、現在の売上や利益だけでなく、次の5点を確認する必要があります。

  1. 創業者が不在でも商品とサービスを再現できるか
  2. 新しい地域でも支持される業態か
  3. 標準的な店舗モデルと投資回収計画をつくれるか
  4. 店長やSVを計画的に育成できるか
  5. 買い手企業の本部機能を活用できる余地があるか

M&Aの目的は、店舗数を一時的に増やすことではありません。買収したブランドの価値を守りながら、継続して成長できる仕組みをつくることです。

外食M&Aの成否は、契約を締結した時点では決まりません。買収後に現場を理解し、ブランドの強みを残し、本部機能を整え、店長とSVを育てられるか。つまり、M&Aで買うべきものは「今ある店舗」ではなく、「これから増やせるブランド」なのです。

 

 

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