第608話 客単価を1割下げても、客数が1割増えればよい――は本当か
居酒屋「てけてけ」などを展開するユナイテッド&コレクティブは、2027年2月期中間期に赤字へ転落しました。報道によれば、低価格販促によって客単価が約1割低下し、その減少分を客数の増加で補えなかったとされています。
物価高で消費者の節約志向が強まるなか、「値下げして客数を増やそう」と考える経営者は少なくありません。しかし、「客単価を1割下げても、客数が1割増えれば売上は戻る」という考え方は、計算上も正しくありません。
例えば、客単価3,000円、客数100人の店舗は、売上30万円です。客単価を10%下げて2,700円にすると、客数が10%増えて110人になっても、売上は29万7,000円にしかなりません。元の売上を確保するには、約111人、つまり11.1%以上の客数増加が必要です。
さらに重要なのは、売上ではなく粗利益です。
値下げしても、食材原価や調理に必要な人件費まで同じ割合で下がるわけではありません。客単価3,000円、変動費1,000円なら、1人当たりの限界利益は2,000円です。300円値下げすれば、限界利益は1,700円になります。元の限界利益20万円を確保するには、約118人の来店が必要です。売上を戻すより、はるかに多くの客数が求められます。
しかも、客数が18%増えれば、注文、調理、配膳、会計、片付けも増えます。ピーク時間に厨房が処理できなければ、料理提供が遅れ、接客品質が下がります。追加の人員が必要になれば、人件費も増加します。客数は増えたのに、利益と顧客満足度が下がるという事態も起こり得ます。
もう一つ確認すべきなのが、値下げで来店したお客様が通常価格でも再来店してくれるかです。割引期間中だけ増え、終了後に客数が元へ戻るなら、一時的に利益を削って来店機会を提供しただけになります。安さを来店理由にしてしまうと、次の販促でも値下げを求められます。
したがって、低価格販促を始める前に、本部は少なくとも次の数字を決めておかなければなりません。
- 値下げ後の1人当たり粗利益
- 粗利益を維持するために必要な客数
- 厨房と客席が処理できる最大客数
- 増客に必要な追加人時
- 通常価格での再来店率
- 施策を修正・中止する基準
多店舗企業では、全店平均だけで判断してはいけません。同じ販促でも、駅前店と郊外店、繁盛店と不振店では効果が違います。店長には売上と客数だけでなく、「粗利益はいくら増えたのか」「追加人件費を引いて利益が残ったのか」まで報告させる必要があります。
値下げは悪い施策ではありません。新規客の獲得、休眠客の呼び戻し、閑散時間帯の稼働率向上など、目的が明確なら有効です。
問題は、目的も撤退基準もないまま、売上不足を値下げで埋めようとすることです。販促の成果は「何人来たか」ではなく、「いくら利益が残り、その後何人が定着したか」で判断すべきです。
安くすれば売れるかもしれません。しかし、売れることと儲かることは別です。値下げを決める前に、増やすべき客数ではなく、残すべき利益から逆算することが重要です。
参考:フードリンクニュース「てけてけ」U&C 2027年度中間決算
