第610話 店長候補を採用しても、店長は育たない
飲食チェーンの経営者から、よく「店長候補が採用できない」という話を聞きます。確かに人手不足が続く現在、将来の店長になり得る人材を採用することは簡単ではありません。
しかし、店長不足の原因を採用だけに求めると、問題の本質を見誤ります。
小売・外食業界の管理職以上350人を対象とした「HR実態調査2026」では、最大の人事課題として「次世代リーダー・管理職の育成」が24.0%を占め、「店舗スタッフ採用」の20.6%を上回りました。また、外食では「店長・店舗責任者候補」の確保も22.8%に上っています。
この調査だけで外食産業全体を断定することはできませんが、採用と同時に「店長へ育てる工程」が大きな課題になっていることは読み取れます。
多くの店舗では、仕事が早く、接客も上手で、周囲から信頼されているスタッフを店長候補に選びます。しかし、優秀なスタッフと優秀な店長に必要な能力は同じではありません。
スタッフは、自分の担当業務を正確に行うことが中心です。一方、店長には、売上や利益の管理、発注、シフト作成、採用、教育、部下への指示、クレーム対応、設備管理など、店舗全体を動かす能力が求められます。
ここに大きな段差があります。
ところが実際には、「来月から店長を任せる」と辞令を出し、数日間の引継ぎだけで店舗を渡してしまうケースがあります。その結果、新任店長は毎日の営業を回すだけで精いっぱいになり、数値管理や部下育成まで手が回りません。
問題が起きると、SVや経営者が代わりに解決します。これが続けば、店長は判断力を身につけられず、本部も「任せられる店長がいない」と感じるようになります。
必要なのは、店長になってから教育することではありません。候補者の段階から、店長業務を少しずつ経験させる「育成工程」です。
例えば、最初は日報と売上の確認、次に発注、時間帯別の人員配置、アルバイトへの指導、月次損益の分析というように、習得する仕事を段階的に増やします。それぞれに「何ができれば合格か」という基準を設け、店長やSVが実際の行動を確認します。
研修を受けたかどうかではなく、一人で実行できるかどうかで判断することが重要です。
SVの役割も変わります。問題が起きるたびに答えを教えるのではなく、新任店長に状況を整理させ、原因と対策を考えさせます。判断の結果を一緒に振り返り、次に同じ問題が起きたとき、自分で対応できる状態をつくります。
店長候補の選定にも注意が必要です。現在の作業能力だけでなく、数字から問題を見つけられるか、人に教えられるか、分からないことを相談できるか、改善を継続できるかを見る必要があります。
もちろん、採用強化や待遇改善も必要です。採用難が店長不足の一因であることは否定できません。しかし、採用人数を増やしても、育成の仕組みがなければ店長は増えません。逆に、今いるスタッフの中に、育て方が分からないために候補から外れている人材がいる可能性もあります。
出店計画を立てるときは、物件数や資金だけでなく、「半年後、1年後に何人の店長を任用できるか」を確認すべきです。店長が育つ速度を超えて出店すれば、既存店の店長を異動させることになり、既存店まで不安定になります。
店長不足は、人がいない問題だけではありません。候補者を選び、仕事を段階的に任せ、SVが確認し、任用後も支援する工程があるかという、本部の仕組みの問題でもあります。
採用活動を始める前に、まず自社に「店長が育つ道筋」があるかを確認する必要があります。
