第464話 吉野家、ラーメン店で欧州進出
吉野家ホールディングス(HD)はラーメン店の出店を拡大する。2024年春に英スコットランドで欧州1号店を開業するほか、進出済みの東南アジアなども含めて店舗網を広げる。現状は国内外で約70の店舗数を34年をめどに約4倍の300店舗まで増やす。ラーメンは国内外で成長が期待できる。主力の牛丼店、うどん店に次ぐ第3の柱に育てる。
出店拡大するのはラーメン事業を手掛ける子会社のウィズリンク(広島市)のラーメン店だ。国内外で「最強トロ炊きとんこつ鶏ガラ醤油(しょうゆ) ばり馬」や「丸鶏醤油ラーメン とりの助」などの店を営む。
足元ではフランチャイズチェーン(FC)店を中心に国内で44店舗、海外ではインドネシアを中心に29店舗のラーメン店を運営している。日本で製造したスープを輸出するなど日本の味わいをそのまま現地で提供する点が特徴だ。
エディンバラにとんこつラーメン店
24年春をめどに英スコットランドの首都、エディンバラにとんこつラーメン店の「BARI-UMA」を海外でも広げやすいFC店で出店する。吉野家HDはこれまで東南アジアや米国などで牛丼チェーンやラーメンチェーンなどを展開してきたが、欧州への出店は初めて。客単価は日本円で1500円程度に設定し月商で10万ドル(約1500万円)以上を見込む。
スコットランドへの出店を皮切りにドイツやイタリアなどへの進出も検討する。すでに出店しているインドネシアやマレーシアなどでも店を増やす。イスラムの教えに沿っていることを示すハラル認証に対応した「鶏白湯」のラーメンなどを開発して、中東エリアへの進出も視野に入れる。
国内でも積極出店を続けて国内外で300まで店舗網を広げる。「約7割を海外が占める」(ウィズリンクの秋月大輔社長)見通しだ。
吉野家HDは中国や米国などで23年10月末時点で994店舗の牛丼チェーンを展開している。新型コロナウイルス禍からの経済再開などを追い風に海外事業の23年3〜11月期のセグメント利益は86%増の17億円と大きく伸びた。24年2月期に牛丼店で前期比25%増の80店以上の出店を計画する。中国やインドネシアが中心だ。今期以降も積極出店を続ける考え。
ラーメンは一度撤退、2社買収で再挑戦
吉野家HDは07年、経営破綻したラーメン一番本部から1杯180円の低価格が特徴の「びっくりラーメン」など124店を8億円弱で譲り受けてラーメン事業に参入した。しかし原材料価格の高騰などで収益が悪化し、09年に撤退した経緯がある。
16年には人気ラーメン店「せたが屋」や「ひるがお」を運営するせたが屋(東京・世田谷)を買収。19年にはウィズリンクを完全子会社化してラーメン事業を再拡大している。
吉野家HDは22〜24年度までの中期経営計画で、ラーメン事業を牛丼チェーンの「吉野家」やうどんチェーンの「はなまる」に次ぐ収益源に育成する方針を掲げている。吉野家HDの河村泰貴社長は「すしの次に国際食になる和食はラーメンだ」と指摘。吉野家HDの海外展開は牛丼店が中心だったが、今後はラーメン展開を本格化する。
海外日本食の有力コンテンツに
ラーメンは国内外で市場が拡大する。農林水産省の調査によると、海外における日本食レストラン数は約18.7万店と21年から約2割増えた。「ラーメンやすしなどの人気を背景に日本食レストランが増えている」(輸出・国際局輸出企画課)。豚骨ラーメン店「一風堂」を展開する力の源HDや、豚骨の「味千ラーメン」の重光産業(熊本県菊陽町)などが海外展開で先行する。
日本経済新聞が英ロンドンから米シリコンバレーまで8都市のラーメンの価格を比較したところ、ニューヨークはチップ込みで21.5ドルと3000円を超えたケースもあった。食材や光熱費の高騰が続くが、1000円前後で提供されることが多い日本よりも値上げは受け入れられやすく収益性が高い。
牛丼店「すき家」などを手掛けるゼンショーHDが21年時点で外食世界6位となり、23年7月には国内外食初の株式時価総額1兆円超えとなった。原動力となっているのが相次いで買収したすしチェーンなどの海外事業だ。すしやラーメンなどは外食の世界市場で有力なコンテンツだ。吉野家も海外攻勢の主軸と位置付ける。
*日経新聞が2024年1月19日に伝えています