第535話 外食業界に吹く追い風と向かい風:好調な「中華」「麺」業態と苦戦する「和風ファスト」の明暗
2025年春、外食産業は花見や行楽、そしてインバウンド需要の恩恵を受け、全体として好調な売上を記録しています。しかし一方で、業態ごとに明暗が分かれ、消費者の価値観や物価上昇の影響も相まって、単純に「右肩上がり」とは言えない状況にあります。
二桁成長の中華・麺類、陰り見せる和風ファスト
日本フードサービス協会の「外食産業市場動向調査(2025年4月)」によると、外食業界全体の売上は前年同月比106.0%。客数は100.9%、客単価は105.1%と、いずれの指標も前年を上回っています。
中でも目立つのが、中華と麺類の躍進です。ファミリーレストラン業態では「中華」が114.3%と大幅な伸び。割引キャンペーンが効果を発揮し、既存顧客の来店を促進しました。「麺類」もファストフード業態内で110.3%と好調。価格訴求やファミリー層の支持が寄与しました。
対照的に「和風ファスト」は苦戦しています。売上こそ100.5%と前年並みを維持したものの、客数は92.1%と大幅に減少。背景には、前月の異物混入報道によるイメージダウンがあり、客離れが影響しました。
「安さ」と「贅沢」が共存する消費者心理
4月は消費者の“二極化”が顕著に表れた月でもありました。ファミリーレストランでは、リーズナブルなメニューの人気が根強い一方、ゴールデンウィーク中は高単価メニューへの需要も増加。いわゆる「メリハリ消費」──必要な場面ではしっかり使う、というスタイルが広がっています。
また、4月に値上げを実施した企業も多く、全体の客単価は105.1%と上昇。しかし、今後も原材料やエネルギーコストが上昇し続ける中で、これ以上の価格転嫁は難しくなる可能性があります。値上げに対する消費者の反応次第では、長期的な来店頻度の減少にもつながりかねません。
喫茶・居酒屋にも見える回復と課題
喫茶業態では、観光地に立地する店舗を中心に売上が伸長。客数は101.2%と小幅ながらもプラス、客単価は109.8%と大きく上昇し、売上は111.2%と全業態で最も好調でした。
一方、居酒屋やパブ業態では、気候の安定化が追い風となり売上は103.7%と回復基調に。ただし、コロナ禍を経たライフスタイルの変化や飲酒習慣の多様化もあり、客単価の伸びは控えめです。
外食ビジネスの未来:「効率化」と「集中」がカギ
外食業界は全体的に売上増の傾向にあるものの、必ずしも利益が伴っているわけではありません。原材料や人件費といったコスト増の影響は依然として重く、店舗運営の効率化が急務です。
ここで重要になるのが「選択と集中」の戦略です。例えば、成長著しい中華・麺類業態に経営資源を集中することで、限られた人材や予算を最大限に活用することが可能になります。逆に、苦戦している和風業態に関しては、商品構成の見直しやブランドの再構築が必要になるでしょう。
加えて、価格に見合った価値提供も不可欠です。単なる値上げではなく、体験価値や品質、サービス力など、価格以上の満足をどう提供できるかが、今後のリピート獲得のカギを握ります。
外食産業は依然として変化の渦中にあります。しかしその中でも、消費者ニーズに寄り添い、戦略的に経営資源を配分することで、勝ち残る道は拓けます。インバウンドやイベント需要などの「追い風」を最大限に活かしつつ、地に足のついた効率経営を目指すことが、これからの外食ビジネスの生命線となるでしょう。