第585話米国外食産業は過去最高売上でも苦しい?
日本の飲食店が学ぶべき“売上より利益”の経営
米国の外食産業は、一見すると非常に好調に見えます。全米レストラン協会の「State of the Restaurant Industry 2026」によれば、2026年の米国外食産業の売上は約1.55兆ドルに達する見込みとされています。しかし、インフレを除いた実質成長率はわずか1.3%にとどまる見通しです。つまり、表面的な売上は伸びているものの、その多くは価格上昇によるものであり、実態としては決して楽観できる状況ではありません。
この現象は、日本の外食産業にとっても非常に重要な示唆を与えています。日本でも近年、原材料費、人件費、水道光熱費、物流費、家賃など、あらゆるコストが上昇しています。その一方で、お客様の財布のひもは決して緩んでいるわけではありません。価格を上げれば売上は一時的に伸びるかもしれません。しかし、客数が減り、来店頻度が落ち、結果として利益が残らなくなる可能性があります。
これからの飲食店経営で重要なのは、「売上がいくらあるか」だけではありません。むしろ、「その売上からいくら利益が残るのか」という視点です。月商1,000万円でも利益が残らない店と、月商700万円でもしっかり利益が残る店では、経営の安定性がまったく違います。多店舗展開やFC化を目指すのであれば、なおさら売上規模よりも利益構造の再現性が問われます。
特に注意すべきなのは、「売上が伸びているから大丈夫」という錯覚です。米国でも売上総額は伸びている一方で、客数の伸び悩みやコスト上昇が続いています。Restaurant Business Onlineも、2026年の売上は1.55兆ドル規模に達する見込みである一方、客数面での課題が続くと報じています。 これは、日本の飲食店にもそのまま当てはまります。値上げで客単価が上がっても、来店頻度が下がれば、店舗の活気は失われます。さらに、リピーターが減れば、広告費をかけて新規客を集め続けなければならず、ますます利益は圧迫されます。
では、日本の飲食店は何を見直すべきでしょうか。
第一に、メニューごとの粗利益を把握することです。売れている商品が、必ずしも利益を生んでいるとは限りません。人気商品であっても、原価率が高く、提供に手間がかかり、人件費まで含めると利益が薄い商品もあります。逆に、注文数は少なくても利益率が高く、オペレーション負荷の少ない商品もあります。これからは「売れ筋」だけでなく、「儲け筋」を見極める必要があります。
第二に、FLコストの管理です。飲食店経営において、食材原価と人件費は最も大きなコストです。仕入れ価格が上がる時代には、レシピ管理、発注管理、ロス管理、棚卸しの精度が利益を左右します。また、人件費についても、単に人数を減らすのではなく、ピーク時間帯とアイドル時間帯を見極め、作業標準化によって少人数でも回る仕組みを作ることが重要です。
第三に、リピート顧客の育成です。売上が苦しくなると、多くの店は新規集客に目を向けます。しかし、足元商圏の既存客に再来店してもらう仕組みがなければ、広告費ばかりが増えて利益は残りません。LINE、会員制度、スタンプカード、SNS、予約台帳などを活用し、顧客リストを持つことが重要です。お客様と継続的につながる仕組みを持つ店と、来店したお客様をその場限りで終わらせる店では、数年後の経営力に大きな差が出ます。
第四に、多店舗展開を急ぎすぎないことです。利益構造が曖昧なまま店舗数を増やすと、赤字店舗を増殖させる危険があります。1号店が繁盛しているからといって、2号店、3号店も同じように成功するとは限りません。必要なのは、立地、商品、価格、オペレーション、人材育成、数値管理を標準化し、「誰が運営しても一定の成果が出る仕組み」を作ることです。これがなければ、FC化も危険です。
米国の外食産業が示しているのは、「市場が大きくても、売上が伸びていても、利益が残るとは限らない」という現実です。これは、これからの日本の飲食店経営にとって極めて重要な教訓です。
これからの時代、飲食店経営者が見るべき数字は、売上だけではありません。客数、客単価、粗利益率、FL比率、営業利益、再来店率、顧客獲得コスト。これらを総合的に見ながら、利益が残る経営モデルを作ることが求められます。
外食産業は、まだまだ可能性のある産業です。しかし、感覚と勢いだけで成長できる時代は終わりつつあります。これから勝ち残るのは、「売上を追う店」ではなく、「利益が残る仕組みを持つ店」です。
多店舗展開やFC化を目指す経営者こそ、いま一度、自社の店舗を見直すべきです。
その売上は、本当に利益を生んでいるのか。
そのメニューは、本当に儲かっているのか。
その店舗は、増やしても再現できるのか。
米国外食産業の現状は、日本の飲食店にこう問いかけています。
「売上拡大の前に、利益が残る店づくりをしていますか?」
