第589話 売上は伸びているのに、なぜ飲食店は苦しいのか
最近、外食産業の売上は回復していると言われます。コロナ禍で落ち込んだ外食需要は戻りつつあり、インバウンド需要や人流の回復、宴会・会食需要の復活もあり、多くの飲食店で売上自体は前年を上回るケースが増えています。
しかし、現場の経営者から聞こえてくる声は、必ずしも明るいものばかりではありません。
「売上は上がっているのに、利益が残らない」
「客数は戻ったが、原価と人件費が重い」
「値上げしたいが、客離れが怖い」
「忙しいのに、なぜか資金繰りが楽にならない」
これが、今の外食産業の実態ではないでしょうか。
飲食店経営において、売上が伸びることはもちろん重要です。しかし、今の時代は売上だけを見ていても経営判断を誤ります。なぜなら、売上の伸び以上に、原材料費、人件費、水道光熱費、物流費、家賃などのコストが上昇しているからです。
特に大きいのが原材料費です。米、油、肉、野菜、調味料、飲料、包材など、飲食店に関わるほぼすべての仕入れ価格が上がっています。以前であれば、多少の原価上昇は店舗努力で吸収できました。しかし、現在の値上げは一時的なものではなく、構造的な上昇と見るべきです。
さらに深刻なのが人件費です。最低賃金の上昇、人材不足、採用費の増加により、飲食店は人を採るにも、定着させるにも、以前より大きなコストがかかるようになりました。人手不足だから時給を上げる。時給を上げても応募が来ない。採用できても教育に時間がかかる。この悪循環に悩む店舗は少なくありません。
ここで重要なのは、「売上が上がったから安心」ではないということです。仮に売上が10%伸びても、原価率が3ポイント上がり、人件費率が2ポイント上がり、水光熱費も増えていれば、営業利益はむしろ減る可能性があります。つまり、今の飲食店は「売れているのに儲からない」という状態に陥りやすいのです。
では、飲食店は何を見直すべきでしょうか。
第一に、メニュー構成です。売れている商品が、本当に利益を生んでいるとは限りません。人気商品であっても、原価率が高く、手間がかかり、提供時間が長ければ、店舗全体の収益を圧迫する場合があります。これからは「売れる商品」だけでなく、「利益が残る商品」「少人数で提供できる商品」を軸にメニューを組み直す必要があります。
第二に、価格設計です。値上げは悪ではありません。問題は、値上げに理由がないことです。お客様は単に高くなったことに反応するのではなく、「その価格に納得できるか」を見ています。食材の品質、提供スピード、接客、空間、安心感、地域での信頼。こうした価値が伝わっていれば、適正な値上げは可能です。
第三に、オペレーションの見直しです。人手不足時代に、昔と同じやり方で店を回そうとすれば、現場は疲弊します。仕込みの簡素化、発注の標準化、ピークタイムの人員配置、セルフオーダーやキャッシュレスの活用など、少人数でも回る仕組みを作ることが重要です。
第四に、顧客リストと商圏販促です。飲食店の売上の多くは、足元商圏のお客様によって支えられています。新規客を追い続けるだけでなく、既存客に再来店してもらう仕組みを持つことが、これからの安定経営には欠かせません。LINE、会員制度、ニュースレター、地域イベントなどを活用し、「思い出してもらえる店」になる必要があります。
外食産業は回復しているように見えます。しかし、実際には「売上が伸びる店」と「利益が残る店」は、必ずしも同じではありません。これからの飲食店経営で問われるのは、売上規模ではなく、利益構造です。
美味しい料理を出すことは大前提です。しかし、それだけでは経営は守れません。原価を管理し、人件費を設計し、価格の理由を伝え、顧客との関係を作り、現場が無理なく回る仕組みを整える。これができる店だけが、インフレ時代の外食産業で生き残っていくのだと思います。
売上を見る経営から、利益を見る経営へ。
今こそ飲食店は、忙しさに安心するのではなく、「本当に儲かる店になっているのか」を見直す時期に来ています。
