第588話 マクドナルドが再び証明した「経営の本質」

店舗を増やす前に、運営を簡単にする

世界最大級の外食チェーンであるマクドナルドが、あらためて「店舗運営のしやすさ」に焦点を当てています。

マクドナルドは2026年6月に新戦略「McDonald’s > NEXT」を発表し、 automation、品質改善、ホスピタリティ強化、SNS活用とともに「店舗を運営しやすくする」方向を打ち出しています。背景には、低所得層を中心とした来店頻度低下や、価格に対する顧客の厳しい目があります。

 

一見すると、マクドナルドのような巨大企業にとって重要なのは、新商品開発、デジタル化、店舗数拡大、マーケティング力のように見えるかもしれません。もちろん、それらも重要です。しかし、今回の動きで注目すべきなのは、「店舗をもっと運営しやすくする」という極めて基本的なテーマに、世界最大級のチェーンが再び向き合っているという点です。

 

私自身、KFC時代に強く感じたことがあります。
チェーンビジネスの強さは、単に商品が美味しいことだけではありません。
どの店舗でも、誰が担当しても、一定水準の商品とサービスを提供できる仕組みを持っていることです。
たとえばチキンの調理ひとつを取っても、圧力釜、調理手順、時間管理、温度管理、教育方法が整っていなければ、店舗ごとに品質はばらつきます。
多店舗展開とは、社長や一部の熟練者の技術を広げることではなく、誰でも再現できる仕組みに変えることなのです。

これは、日本の飲食店経営者、多店舗展開を目指す企業、FC本部にとって非常に重要な示唆を持っています。

多くの経営者は、成長を考えるときに「次の出店」を考えます。2号店を出したい。10店舗にしたい。FC展開したい。全国展開したい。その意欲は大切です。しかし、店舗を増やす前に確認すべきことがあります。

それは、「今の店は、本当に誰でも運営しやすい状態になっているか」ということです。

社長が毎日現場に入っているから回っている店。ベテラン店長の経験と勘で何とか成り立っている店。特定のスタッフがいないと仕込みや営業が回らない店。マニュアルはあるが実際には使われていない店。こうした状態のまま店舗を増やすと、成長ではなく混乱が広がります。

多店舗展開の失敗は、商品力がないから起きるとは限りません。むしろ、1号店は繁盛していたのに、2号店、3号店で崩れるケースは多くあります。その原因の多くは、商品そのものではなく、運営の複雑さにあります。

メニュー数が多すぎる。仕込みが属人的である。発注基準が曖昧である。新人教育に時間がかかりすぎる。ピーク時の動線が悪い。店長が数字を見る時間を持てない。SVが現場を支援する基準を持っていない。こうした小さな複雑さが積み重なると、店舗数が増えた瞬間に本部も現場も疲弊します。

本当に強いチェーンは、現場の仕事を難しくしません。

誰がやっても一定の品質で商品を提供できる。新人でも段階的に仕事を覚えられる。店長が売上、原価、人件費を確認しやすい。発注、清掃、教育、クレーム対応の基準が明確である。SVが店舗を見たとき、何を確認し、どこを改善すべきかが分かる。こうした状態を作ることが、店舗を増やす前の土台になります。

マクドナルドの強さは、単にブランドが有名だからではありません。長年にわたり、店舗運営を標準化し、作業を分解し、教育を仕組み化し、誰でも一定水準の店舗運営ができるようにしてきた点にあります。もちろん、時代が変われば課題も変わります。人手不足、コスト上昇、顧客ニーズの変化、デジタル注文の拡大などに対応するため、マクドナルドでさえ、あらためて運営の簡素化を進めているのです。

ここから日本の経営者が学ぶべきことは明確です。

成長の前に、簡単にする。
出店の前に、標準化する。
FC募集の前に、加盟店が運営しやすい仕組みを作る。

特にFC本部にとって、これは極めて重要です。加盟店は、本部の理念や商品に共感して加盟します。しかし、開業後に日々向き合うのは、仕込み、人材採用、教育、売上管理、クレーム対応、原価管理、シフト作成といった現実の運営です。ここが複雑すぎれば、加盟店は疲弊します。利益が出なければ不満が高まります。そして、本部への信頼も失われていきます。

FC本部の価値は、加盟店を集める力だけではありません。加盟店が継続して利益を出せるように、運営を簡単にしてあげる力です。

そのためには、まずメニューを見直す必要があります。売れるからといって商品数を増やしすぎると、仕入れ、在庫、教育、調理、提供時間が複雑になります。次に、作業手順を見直す必要があります。職人技に頼りすぎたオペレーションは、拡大には向きません。さらに、店長業務も整理すべきです。店長が現場作業に追われるだけでは、数値管理も人材育成もできません。

そして、本部はSVの役割を明確にしなければなりません。SVが店舗を訪問して、ただチェックするだけでは意味がありません。店舗の数字を見て、現場を観察し、店長と改善策を決め、実行を支援し、成果を確認する。この流れが仕組み化されて初めて、店舗数を増やしても崩れない本部になります。

飲食店経営において、複雑さは利益を奪います。複雑なメニューはロスを増やします。複雑な作業は教育時間を増やします。複雑な管理は店長を疲弊させます。複雑な本部指示は現場の混乱を招きます。

逆に、運営が簡単な店は強い店です。新人が育ちやすく、店長が管理しやすく、SVが支援しやすく、加盟店が利益を出しやすい。だからこそ、多店舗展開やFC化に向いているのです。

これからの飲食店経営者は、店舗を増やす前に自社に問いかけるべきです。

この店は、社長がいなくても回るのか。
この商品は、誰が作っても同じ品質になるのか。
この業態は、新人でも覚えやすいのか。
この店長業務は、数字改善に時間を使える設計になっているのか。
この仕組みは、加盟店でも再現できるのか。

マクドナルドが再び証明しているのは、経営の本質です。

成長する会社ほど、現場を難しくしない。
強いチェーンほど、運営を簡単にする。
選ばれるFC本部ほど、加盟店が成功しやすい仕組みを持っている。

店舗を増やすことは、目的ではありません。
増やしても崩れない仕組みを作ることが、先です。

これから多店舗展開やFC化を目指す経営者に必要なのは、派手な成長戦略の前に、現場をシンプルにする経営です。

「運営を簡単にすること」

それこそが、これからの時代に店舗を増やすための、最も重要な経営戦略ではないでしょうか。

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