第595話 繁盛店を残す方法は、FC化と会社売却だけではない

屋号・レシピだけを引き継ぐ「第三の道」

長年、地域で愛されてきた飲食店が、後継者不在によって閉店するケースが増えています。

料理にはファンが付き、屋号にも信用がある。それでも、経営者の高齢化や人材不足によって事業を続けられない。これは店主だけの問題ではなく、地域に蓄積された価値が失われるという問題でもあります。

こうした中、飲食業界専門のM&A仲介会社が、屋号・登録商標・レシピ・マニュアルなどの無形資産だけを譲渡する「屋号承継サービス」を始めました。

会社や店舗そのものを売却する一般的なM&Aとは違い、店の名前や味、運営ノウハウを切り出して第三者へ引き継ぐ方法です。

FCともM&Aとも違う

フランチャイズでは、本部が加盟店にブランドやノウハウの使用を認め、開業後も教育や経営指導を行います。その対価として加盟金やロイヤリティを受け取ります。

一方、一般的なM&Aでは、会社の株式や店舗事業そのものを譲渡します。従業員、設備、契約関係、債権・債務なども承継対象になる可能性があります。

屋号承継は、その中間に位置するように見えますが、実際にはどちらとも異なります。屋号やレシピなどの権利を買い手へ移すため、原則として元の店主が継続的に指導する仕組みや、ロイヤリティを受け取る関係はありません。

売り手には、会社を売却せずに店の名前や味を残せる可能性があります。買い手には、ゼロから新業態を開発するより、既に認知されたブランドや商品を取得できる利点があります。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

味や知名度は買えても、再現性までは買えない

繁盛店の強さは、屋号とレシピだけでできているわけではありません。

店主の仕入れ先との関係、食材を見る目、微妙な火加減、接客時の会話、常連客への対応、スタッフを育てる方法など、文書にされていないノウハウが店の価値を支えています。

レシピに「強火で炒める」と書かれていても、どの状態まで炒めるのかを再現できなければ、同じ味にはなりません。店主が感覚的に行ってきた判断を、第三者が実行できる基準へ変える作業が必要です。

つまり、屋号承継で重要なのは、何を譲渡するかだけではありません。

「買い手が継続して再現できる状態になっているか」が最も重要です。

多店舗化には別の仕組みが必要

人気店の屋号とレシピを取得すれば、すぐに多店舗展開できると考えるのは危険です。

一店舗を営業する仕組みと、複数店舗で同じ品質を維持する仕組みは違います。多店舗化には、調理工程の標準化、仕入れ体制、教育プログラム、数値管理、品質監査、店長育成などが必要です。

さらに、商標の権利範囲、類似名称の使用状況、レシピの秘密管理、仕入れ先との契約、元店主の引継ぎ期間なども明確にしなければなりません。

これらが曖昧なままでは、屋号は引き継げても、店の価値を引き継ぐことはできません。

残すべきものは「名前」ではなく「価値」

屋号承継は、後継者不足に悩む繁盛店にとって、新たな選択肢になる可能性があります。

ただし、短期間で譲渡が成立することと、承継後の事業が成功することは別です。重要なのは、名前やレシピを売ることではなく、お客様から支持されてきた理由を分解し、第三者が再現できる形に変えることです。

繁盛店を残すとは、看板を残すことではありません。

その店がお客様に提供してきた価値を、次の経営者が継続して届けられる仕組みにすることなのです。

参考:屋号・レシピだけ売却する「屋号承継」スタート|フードリンクニュース

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