第594話すべてのお客様を集める経営は終わった

これからの飲食店は「正しいお客様」を増やす時代へ

飲食店経営では、昔から「客数を増やすこと」が重要だと言われてきました。

もちろん、客数は大切です。お客様が来なければ売上は作れません。しかし、これからの時代に本当に考えるべきなのは、単純に来店客数を増やすことではありません。

重要なのは、「どのようなお客様を増やすのか」という視点です。

米国の外食業界でも、来店客数をただ追いかけるのではなく、自社にとって価値の高い顧客を最適化すべきだという考え方が出てきています。これは、日本の飲食店にとっても非常に重要なテーマです。

なぜなら、日本はすでに人口減少の時代に入っているからです。

商圏人口が増え続ける時代であれば、新規客をどんどん集めることで売上を伸ばすことができました。しかし、これからはそう簡単ではありません。人口が減り、人手も不足し、原価や人件費も上がる中で、ただ来店客数だけを追いかける経営は、むしろ危険になる可能性があります。

たとえば、値引きクーポンで一時的にお客様を集めたとします。確かに、その日は客数が増えるかもしれません。しかし、そのお客様が通常価格では来店しない、リピートしない、利益率の低い商品だけを注文する、混雑によって常連客の満足度を下げるとしたらどうでしょうか。

客数は増えたのに、利益は残らない。
新規客は来たのに、常連客が離れる。
現場は忙しくなったのに、スタッフは疲弊する。

これは、本当の意味で良い集客とは言えません。

これからの飲食店経営で大切なのは、「誰でもいいから来てもらう」ことではなく、自店にとって長く付き合えるお客様を増やすことです。

その考え方の中心になるのが、LTV、つまり顧客生涯価値です。

LTVとは、1人のお客様が長期的に自店にもたらしてくれる売上や利益のことです。たとえば、1回だけ来店して3,000円使うお客様よりも、毎月1回来店して年間36,000円使ってくれるお客様の方が、店舗にとってははるかに価値があります。さらに、そのお客様が家族や友人を連れてきてくれるなら、その価値はもっと大きくなります。

飲食店が本当に大切にすべきなのは、このようなお客様です。

特に地域密着型の店舗では、足元商圏の固定客をどれだけ増やせるかが経営の安定を左右します。遠方から一度だけ来る話題性のあるお客様も大切ですが、日常的に利用してくれる近隣のお客様こそ、店舗の基盤になります。

平日のランチに来てくれる人。
仕事帰りに立ち寄ってくれる人。
家族の記念日に使ってくれる人。
月に何度もテイクアウトしてくれる人。
スタッフの名前を覚えてくれる人。

こうしたお客様との関係性が、人口減少時代の飲食店を支える力になります。

では、「正しいお客様」を増やすためには何が必要でしょうか。

第一に、自店が誰に選ばれたいのかを明確にすることです。

すべてのお客様に好かれようとすると、店の特徴は薄くなります。価格を安くしすぎると利益が残りません。メニューを増やしすぎるとオペレーションが複雑になります。幅広い客層に対応しようとしすぎると、本当に来てほしいお客様への訴求が弱くなります。

大切なのは、「自店にとって理想のお客様は誰か」を決めることです。

近隣の働く人なのか。
子育て世代なのか。
シニア層なのか。
健康志向の人なのか。
外食を特別な体験として楽しみたい人なのか。

ここが明確になると、商品、価格、接客、販促、営業時間、店内空間の設計が変わります。

第二に、顧客リストを持つことです。

多くの飲食店は、お客様が来店しても、そのお客様と継続的につながる仕組みを持っていません。来店したお客様が誰なのか、どのくらいの頻度で来ているのか、何を注文しているのか、なぜ再来店しているのかが分からないまま営業しています。

これでは、毎日新規客を待つ経営になってしまいます。

LINE、会員制度、予約台帳、スタンプカード、SNS、メールなど、方法は何でも構いません。重要なのは、一度来てくれたお客様とつながり、再来店を促す仕組みを持つことです。

第三に、再来店理由を設計することです。

お客様は、ただ「また来てください」と言われただけでは再来店しません。再来店する理由が必要です。

季節メニュー、限定商品、会員特典、誕生日サービス、次回利用券、地域イベント、スタッフとの関係性。これらを組み合わせて、お客様がもう一度来たくなるきっかけを作ることが重要です。

ただし、ここでも注意が必要です。再来店施策は、単なる値引きであってはいけません。値引きだけでつながったお客様は、より安い店があれば離れてしまいます。本当に作るべきなのは、「この店だから行きたい」という関係性です。

これからの飲食店経営では、客数、客単価、売上だけでは不十分です。見るべき数字は、再来店率、来店頻度、顧客単価、顧客別利用額、既存客比率です。

どれだけ多くのお客様が来たかではなく、どれだけ大切なお客様が戻ってきてくれたか。

これが、これからの飲食店経営の重要な指標になります。

人口減少時代に、すべてのお客様を集めようとする経営は限界を迎えます。これから必要なのは、自店に合ったお客様を明確にし、そのお客様と長くつながり、繰り返し利用してもらう経営です。

新規客を追い続ける店から、固定客に支えられる店へ。
一度きりの集客から、LTVを高める経営へ。
客数だけを見る経営から、正しいお客様を増やす経営へ。

飲食店にとって、本当に大切なのは「たくさんのお客様」ではありません。

自店を理解し、繰り返し利用し、利益を残し、周囲に紹介してくれるお客様です。

これからの時代に強い店は、すべてのお客様を集める店ではありません。

自店にとって本当に大切なお客様に、選ばれ続ける店なのです。

 

 

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