第586話 「美味しいのに売れない飲食店」に足りないもの――売上を伸ばす鍵は“伝える仕組み”
店舗型ビジネスに欠けているマーケティングの視点
飲食店の経営者と話をしていると、非常に多くの方が「もっと美味しい商品を作れば、お客様は増える」と考えています。もちろん、料理が美味しいことは飲食店にとって大前提です。まずい料理を出していて、長く繁盛することはありません。
しかし、ここで大切なのは、「美味しいこと」と「売れること」は、同じではないということです。
多くの店舗型ビジネス、特に飲食店で欠けているのは、マーケティングの視点です。つまり、良い商品を作る努力はしているのに、その良さを誰に、どのように伝え、来店につなげ、さらに再来店してもらうかという仕組みが弱いのです。
プロダクトに注力しすぎる飲食店
飲食店の経営者は、職人気質の方が多いものです。
「もっと美味しくしたい」
「もっと良い食材を使いたい」
「もっと手間をかけたい」
「他店にはないメニューを作りたい」
この姿勢は素晴らしいことです。飲食業において、商品力は非常に重要です。美味しい料理、魅力あるメニュー、満足度の高い体験がなければ、リピートは生まれません。
しかし問題は、プロダクトだけに意識が偏りすぎることです。
どれだけ美味しい料理を作っても、その存在をお客様が知らなければ来店はありません。どれだけこだわった商品であっても、その価値が伝わらなければ「高い」と思われてしまいます。どれだけ良い店であっても、思い出してもらえなければ再来店にはつながりません。
飲食店経営において重要なのは、
商品力 × 伝達力 × 再来店の仕組み
です。
商品力だけでは、売上は安定しません。
売上の8割は足下商圏から生まれる
店舗型ビジネスの特徴は、商圏に大きく影響されることです。
特に飲食店の場合、売上の多くは遠方からのお客様ではなく、店舗周辺の生活圏・勤務圏・通行圏から生まれます。いわゆる足下商圏です。
もちろん、話題性のある有名店や観光地型店舗であれば、遠方からの来店もあります。しかし、日常利用型の飲食店では、売上の大半は近隣のお客様によって支えられています。
つまり、店舗型ビジネスにおいて本当に重要なのは、
遠くの誰かに知られることではなく、近くの人に確実に知ってもらうこと
です。
ところが、多くの店はこの視点が弱いのです。
SNSをやっている。
ホームページもある。
Googleマップにも登録している。
チラシもたまに配っている。
しかし、それらが本当に足下商圏のお客様に届いているか。来店につながっているか。再来店につながっているか。ここまで設計できている店舗は意外と少ないのです。
「美味しい店」であることを伝えなければ売上は上がらない
経営者が「うちは美味しい」と思っていても、それだけでは不十分です。
お客様は、店の中に入る前には味を確認できません。来店前のお客様が判断できるのは、外観、看板、口コミ、写真、メニュー、価格、SNS、Googleマップ、知人からの紹介などです。
つまり、来店前の段階では、料理そのものではなく、伝わっている情報によって選ばれているのです。
ここにマーケティングの重要性があります。
「何が美味しいのか」
「なぜ美味しいのか」
「誰に向いている店なのか」
「どんな利用シーンに合うのか」
「他店と何が違うのか」
「一度行く価値がある理由は何か」
これらをお客様にわかりやすく伝える必要があります。
たとえば、単に「こだわりのハンバーグ」と言うだけでは弱いのです。
「肉汁あふれる粗挽きハンバーグ」
「ランチでも満足できる手ごねハンバーグ」
「家族で楽しめる鉄板ハンバーグ」
「仕事帰りに食べたい大人の洋食ハンバーグ」
このように、誰に、どんな価値を提供するのかを明確にすることで、お客様は選びやすくなります。
美味しさは、伝えて初めて価値になります。
顧客リストを持たない店は、毎日新規客を待つしかない
もう一つ、多くの飲食店に欠けているのが顧客リストです。
一度来店してくれたお客様と、次につながる仕組みを持っていない店舗が非常に多いのです。
これは非常にもったいないことです。
新規客を集めるには、広告費も手間もかかります。ところが、一度来店して満足してくれたお客様に再来店してもらう方が、はるかに効率的です。
そのためには、LINE公式アカウント、メール、会員カード、アプリ、SNSフォローなど、何らかの形でお客様とつながる必要があります。
顧客リストがあれば、新メニューのお知らせ、季節商品の案内、イベント告知、雨の日対策、閑散時間帯の集客、誕生日特典、再来店クーポンなど、さまざまな施策が打てます。
逆に、顧客リストがなければ、店は常に「来てくれるのを待つ」だけになります。
これは、非常に不安定な経営です。
これからの飲食店に必要なのは「売れる仕組み」
これからの飲食店経営では、美味しい料理を作ることに加えて、売れる仕組みを持つことが不可欠です。
具体的には、次の5つが重要です。
1つ目は、足下商圏のお客様を明確にすること。
2つ目は、自店の強みをわかりやすく言語化すること。
3つ目は、Googleマップ、SNS、看板、店頭販促などで伝えること。
4つ目は、一度来店したお客様とつながること。
5つ目は、再来店を促す仕組みを持つこと。
飲食店の売上は、偶然ではなく設計できます。
「美味しいものを作っていれば、いつかお客様は来てくれる」という時代ではありません。美味しい料理を作る努力と同じくらい、その価値を伝える努力が必要です。
店舗型ビジネスにおけるマーケティングとは、決して難しい理論ではありません。
近くのお客様に知ってもらい、来店してもらい、満足してもらい、もう一度来てもらう仕組みを作ること。
これこそが、飲食店に必要なマーケティングの本質です。
美味しい店が繁盛するのではありません。
美味しさを伝え、顧客とつながり続ける店が繁盛するのです。
