第598話 本部が決めても、店舗で実行されなければ戦略ではない

マクドナルドに学ぶ、多店舗経営の「実行力」

マクドナルドの米国事業で、興味深い指摘がありました。

第2四半期の米国既存店売上は0.8%増にとどまりました。決して大きな落ち込みではありませんが、世界最大級の外食チェーンとしては、物足りない結果と見られています。注目すべきは、同社CEOが「戦略そのものが間違っていた」というよりも、「実行が十分ではなかった」と認識している点です。

新しい低価格施策を導入したものの、施策投入のスケジュールが過密になり、マーケティングも十分に届かなかったとされています。つまり、やるべきことは見えていた。しかし、それが現場と顧客に十分伝わり、店舗で確実に実行される状態にはなっていなかった、ということです。

これは日本の多店舗企業やFC本部にとって、非常に重要な示唆です。

多くの本部は、売上を上げるために次々と施策を打ちます。新商品を出す。キャンペーンを行う。限定メニューを投入する。アプリ販促を行う。POPを変える。マニュアルを改訂する。接客強化を指示する。現場改善のチェックリストを送る。

もちろん、それぞれの施策には意味があります。しかし問題は、店舗がそれを実行できる状態になっているかどうかです。

本部から見れば、ひとつひとつの施策は正しく見えます。ところが店舗側から見ると、日々の営業、人手不足、仕込み、接客、クレーム対応、シフト調整、清掃、発注、教育に追われる中で、さらに新しい施策が次々と降りてくることになります。

結果として、現場では何が起きるでしょうか。

POPは貼られているが、スタッフが内容を説明できない。
新商品は導入されたが、調理手順が徹底されていない。
キャンペーンは始まっているが、店長が目的を理解していない。
マニュアルは配信されたが、読まれていない。
本部は実施したつもりでも、店舗では形だけになっている。

これでは、戦略は成果につながりません。

多店舗経営において、本部が決めることは戦略の入り口にすぎません。戦略は、店舗で実行され、お客様に伝わり、売上や再来店につながって初めて意味を持ちます。

特にFC本部では、この点が非常に重要です。

直営店であれば、本部の指示は比較的通りやすいかもしれません。しかしFC加盟店は、独立した経営者です。本部が一方的に施策を決めても、加盟店がその意味を理解し、納得し、実行できなければ成果は出ません。

加盟店からすれば、「また本部から新しい指示が来た」「現場は忙しいのに、やることばかり増える」と感じることもあります。そうなると、本部施策は前向きな成長施策ではなく、現場負担として受け止められてしまいます。

では、本部は何を見直すべきでしょうか。

第一に、施策を絞ることです。

売上を上げたいからといって、同時に多くのことをやりすぎると、現場は消化できません。新商品、販促、接客改善、アプリ登録、客単価アップ、原価管理、清掃強化を同時に求めても、店長もスタッフも優先順位を失います。

重要なのは、「今月、店舗が最も集中すべきことは何か」を明確にすることです。

客数を増やすのか。
客単価を上げるのか。
看板商品の品質を安定させるのか。
提供スピードを改善するのか。
再来店を促すのか。

目的が曖昧なまま施策を増やすと、現場は動けません。

第二に、現場で実行できるレベルまで落とし込むことです。

本部が「新商品を売り込む」と決めるだけでは不十分です。スタッフが何と言っておすすめするのか。どのタイミングで声をかけるのか。POPはどこに置くのか。ピーク時でも提供できる手順になっているのか。在庫切れを防ぐ発注基準はあるのか。クレームが出た場合の対応は決まっているのか。

ここまで具体化されて初めて、現場は動けます。

第三に、SVの役割を見直すことです。

本部施策を現場に浸透させるうえで、SVは非常に重要な存在です。SVは単なるチェック係ではありません。本部の方針を店舗が理解できるように伝え、実行状況を確認し、店長と一緒に改善する役割を担います。

もし本部施策がうまくいかないとすれば、店舗だけの責任ではありません。本部から店舗への伝達、SVの支援、店長の理解、スタッフ教育のどこかに詰まりがあります。

第四に、店長が実行できる余白を作ることです。

店長が常に人手不足の穴埋めに追われ、シフト作成とクレーム対応だけで一日が終わっている状態では、新しい施策を実行する余裕はありません。店長に戦略を実行してもらうには、店長が考え、教え、確認する時間を持てるようにする必要があります。

多店舗展開やFC化で失敗する企業は、戦略がないわけではありません。むしろ、施策はたくさんあります。問題は、それを現場が実行できる状態に設計できていないことです。

本部が決める。
SVが伝える。
店長が理解する。
スタッフが実行する。
お客様が価値を感じる。

この流れがつながって初めて、戦略は売上になります。

マクドナルドの事例は、日本の外食企業にこう問いかけています。

本部は本当に、現場が実行できる量まで施策を絞っているか。
店長は、その施策の目的を理解しているか。
スタッフは、お客様に伝えられる状態になっているか。
SVは、現場での実行を支援できているか。
本部は、指示を出しただけで実行されたと思い込んでいないか。

これからの多店舗経営で問われるのは、立派な戦略を作る力だけではありません。

現場で実行される戦略に変える力です。

本部が決めても、店舗で実行されなければ、それは戦略ではありません。
単なる指示で終わります。

本当に強い本部とは、現場にやることを増やす本部ではありません。
現場が成果を出せるように、やることを絞り、伝え方を整え、実行を支援する本部です。

これからのFC本部、多店舗企業に必要なのは、施策の数ではありません。
実行される仕組みです。

戦略の質は、会議室ではなく、店舗の現場で証明されるのです。

 

 

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