第432話 コロナ5類後1カ月、消費回復一段と

2023年6月8日の日経新聞Web版でアフターコロナ(コロナ5類)の状況を伝えている。

新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「5類」に移行して1カ月が過ぎ、消費の回復が鮮明になっている。出遅れていた夜間消費でも飲食店のディナー予約がコロナ前の9割の水準になった。富裕層や外国人旅行客の消費意欲も引き続き旺盛だ。一部では人手不足が深刻になり、回復に向かう需要の取りこぼしも懸念されている。

新型コロナは5類移行で法律上、季節性インフルエンザと同等の扱いになった。政府や自治体が法律に基づいて行動制限を要請することはなくなり、感染対策は自主判断となった。医療体制や社会生活はコロナ禍前に戻った。水際対策も終わり、インバウンド(訪日外国人)は復調傾向にある。

コロナ禍前への回復が顕著にみられるのは飲食サービスだ。

飲食店向け予約管理サービスを手掛けるテーブルチェック(東京・中央)によると、5月のディナー時間帯(午後5時〜午前0時)の平均予約人数はコロナ禍前の2019年同月比で約9割の水準だ。4月は19年同月に比べて7割の水準だった。

5月の予約全体に占める10人以上での来店者比率も5類移行後は約3割と、4月から数ポイント伸びた。

 

ワタミでは「ミライザカ」や「鳥メロ」などの居酒屋業態の5月の既存店売上高が19年比94%となった。クリエイト・レストランツ・ホールディングス子会社が運営する「磯丸水産」や「鳥良商店」などの居酒屋業態も19年比で88%の水準だ。

飲食店業界は居酒屋を中心に回復の動きが鈍かった。5類移行前は行動制限がなくてもコロナ禍前の経済水準の8割にとどまる「8割の壁」があった。

ワタミの渡辺美樹会長兼社長は「5類移行が追い風となり、想定より売上高が戻っている」と話す。高級レストランを運営するうかいでは「(企業の)会食の人数が増え、お祝い事で利用する家族客も増えている」という。

夜間利用の多いタクシーも伸びている。国際自動車(東京・港)によると、5月の総走行距離は19年同月とほぼ同水準まで回復した。松本良一常務は「半年前から回復基調にあったが5類移行が最後のスイッチになった」と指摘する。

日本交通(東京・千代田)は、運転手不足から車両の稼働率が下がっていることもあるが、5類移行後の1台あたりの売上高は19年同期に比べて2割程度高い。

行楽・娯楽消費も堅調

「密」を避ける目的から低迷していた行楽・娯楽消費も堅調だ。第一興商によると、カラオケ店「ビッグエコー」は会社員が多い都心の駅周辺の店舗を中心に客数や売り上げが伸び、コロナ禍前の水準近くまで回復した。「宴会後に立ち寄る人が増えている」(同社)とみる。

遊戯施設のラウンドワンは5月の国内売上高が19年同月比1割超増え、「マスクの着用ルール撤廃でレジャー志向の高まりを感じる」という。

 

5類移行、経済効果は4兆2000億円

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは5類移行の経済効果が約4兆2000億円で、実質国内総生産(GDP)を0.75%押し上げるとみる。熊野氏は「円安でインバウンドの客単価や消費額が上がっているのに加え、ここ1カ月でマスクなしの生活が広がり、外出を伴う消費マインドを押し上げた」とみる。

ナウキャスト(東京・千代田)とJCBがまとめたクレジットカード決済額に基づく個人消費の指数は、5類移行後の1週間を含む5月前半が、コロナ禍前の16〜18年の同時期の平均と比べて9.3%増だった。4月後半から伸び率が拡大し、部門別では外食や旅行がプラスに転じた。

百貨店はインバウンド回復の恩恵を受けている。三越伊勢丹ホールディングスは5月の既存店売上高(速報値)が19年比106.6%とコロナ前の水準を上回る。特に旗艦店の三越銀座店(東京・中央)や伊勢丹新宿本店(東京・新宿)の免税売上高が伸びている。

結婚式の招待客数、行動変容響き回復鈍く

もっとも5類移行で人流は完全には回復していない。いったん大きく変わった生活様式や働き方までが元に戻っているわけではないためだ。

JR東日本によると、5月の鉄道営業収入はコロナ前の88%に対し、定期収入は82%にとどまる。「企業の働き方改革が進んだことが(戻りが鈍い)要因と考えられる」(JR東の担当者)

結婚式場大手のテイクアンドギヴ・ニーズでは、コロナ禍前は平均70人程度だった1組あたりの招待客数が足元で50人台後半の回復にとどまる。在宅勤務の定着で職場内結婚が減少したうえ、社内の人間関係の希薄化で上司や同僚を招待するカップルが減った。コロナ禍で進んだ行動変容の影響が出ている。

飲食店でも午後10時以降の利用が減った。ワタミの渡辺氏は「深夜帯での(2次会)利用や宴会がなくなるなど、ライフスタイルが変わった」と話す。

人手不足の対策が課題

消費のさらなる活性化に向けて、人手不足の対策が課題となる。居酒屋チェーンのつぼ八では、従業員が集まらずに営業を再開できていない加盟店もある。「単発や短期のアルバイトで働く若者が増え、1カ月ごとにシフトが固まる居酒屋の働き方が合わなくなっている」(同社)

観光関連事業を手掛けるアルピコホールディングス(長野県松本市)は運営するホテル・旅館の計画休業を検討している。4月の同社のホテル3つの稼働率は約85%だった。「稼働率がこれ以上上がると労務管理が厳しくなる」(同社)

客室単価を上げることで稼働率を抑えたり、退職した従業員を再雇用したりして対策を練る。

音楽やライブなどの公演に詳しいぴあ総研の笹井裕子所長は「人手不足に加え、3年にわたるコロナ禍で警備や音響に必要な専門スタッフが離れ、やりたい公演ができない、できなかったという話は聞く」と話す。

人件費が高騰し、公演を支える学生アルバイトが働く時間を制限する事例も影響しているという。

毎月勤労統計によると4月の実質賃金(速報値)は前年同月比で3.0%減と13カ月連続でマイナスだった。第一生命経済研の熊野氏は「6月の電気料金の値上げによる負担増を賃上げが吸収すると期待していたが、重しが増えるだけの形になってしまっている」と話す。インフレの進展によっては回復機運が縮む可能性がある。

(猪俣里美、篠原英樹)

 

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