第540話(米国最新情報)AIがレストラン業界にもたらす最大の価値とは? 〜顧客体験の進化が加速中〜
AI(人工知能)は、今やレストラン業界にも本格的に浸透し始めています。在庫管理やシフト作成、採用支援、さらには調理工程の最適化まで、活用の幅は実に多岐にわたります。しかし、実際に最も成果が見られる分野はどこかと問われると、多くの経営者は「顧客体験の向上」と答えています。
デロイトが11カ国のレストラン経営者375名を対象に行った調査によると、約60%の飲食店がAIを顧客体験の改善に活用していることが明らかになりました。これは他の活用分野に比べても圧倒的に高い割合で、業務効率化(36%)やロイヤルティプログラム強化(31%)を大きく上回っています。
チャットボットやレコメンドエンジンが主役に
実際の現場では、予約対応や顧客からの問い合わせにAIチャットボットを導入したり、アプリやキオスク端末での購入時に機械学習を活用したおすすめ機能が使われています。こうした機能により、オーダー単価のアップや顧客満足度の向上が見込まれています。
特に注目されるのは、アップセルの一貫性とスピード感ある対応の実現です。人手に頼らずに、常にベストな提案を提供することで、顧客にとっても心地よい体験となります。
消費者の意識はどうか?
AIに対する消費者の反応も徐々にポジティブになりつつあります。DoorDashの調査によれば、52%の人が「過去の注文履歴を元にしたAIからのおすすめを受け取ることに抵抗がない」と答えており、Mood Mediaの調査でも、過半数がAIチャットボットによる注文に抵抗感がないと回答しています。
一方で、AIに対して厳しい目を持っているのも事実です。約25%の消費者は、AIとの不快な体験があった場合、その店舗に再び訪れる可能性が下がると回答しています。便利さの裏には、「正確さ」や「信頼性」への高い期待があることも無視できません。
AI活用の先頭を走るのはカジュアルダイニング業態
今回の調査では、特にカジュアルダイニング業態のレストランがAI活用に積極的であることがわかりました。顧客体験の向上を最も重要視する傾向があり、約60%の店舗がこの分野でAIを導入中です。一方、ファストフードなどのリミテッドサービス業態では約40%にとどまっています。
在庫管理の面でも同様で、カジュアルダイニングの45%がAIを活用しているのに対し、リミテッドサービスでは25%程度にとどまっています。背景には、フルサービス型のレストラン運営の方が業務が複雑で、AIの恩恵を受けやすいという事情があるようです。
今後の展望と課題
AI導入の今後についても興味深い結果が出ています。まずは顧客体験と在庫管理といったフロントラインからスタートし、次にロイヤルティプログラムや従業員体験、さらに将来的には調理や商品開発にもAIの活用が進むと見られています。
とはいえ、課題も多く存在します。調査によると、
- 約80%がリスク管理やガバナンスに懸念を抱えており、
- 75%が人材強化の必要性を感じ、
- 70%以上が技術インフラの未整備を課題としています。
加えて、AI活用のユースケースが見出せない、顧客データの取扱いが不安、社内に適切な人材がいないなど、導入が進まない要因も複数挙げられています。
まとめ
AIは、レストラン業界において「現場の省力化ツール」ではなく、「顧客との関係を深める体験強化ツール」として進化を遂げつつあります。特にカジュアルダイニングなどホスピタリティ重視の業態では、AIによる“気の利いたサービス”が大きな武器になるでしょう。
ただし、導入には明確な目的とシナリオが不可欠です。技術を活かすも殺すも、人間次第。これからの時代、AIとの共存をどう設計するかが、レストラン経営の未来を左右すると言えるかもしれません。