第539話 【警鐘】全国で進むフードコートの空洞化──外食チェーン撤退の背景とその先にある危機と再生
近年、日本全国のショッピングセンターにおいて、フードコートの空洞化が静かに、しかし着実に進行しています。
大手モールで複数テナントが一斉撤退、さらには「営業中の飲食店ゼロ」という異常事態まで発生し、かつて賑わいの象徴だったフードコートが、今や「閑散とした空間」と化している例も珍しくありません。
これは単なる一過性の現象ではなく、商業施設の構造的な課題を浮き彫りにする重大なシグナルです。
なぜ、フードコートから外食チェーンが撤退するのか?
撤退の理由は多岐にわたりますが、主な要因は以下のとおりです。
- モールの集客力低下と売上不振
ECサイト・フードデリバリーの台頭により、モール自体への来訪頻度が減少。
特に郊外型施設では「買い物も食事も自宅で済ませる」流れが加速し、フードコートの売上はピーク時から右肩下がり。
その結果、売上歩合型賃料でも採算が合わず、撤退を余儀なくされるケースが続出しています。
- テナント側のコスト増加
物価上昇、最低賃金の引き上げ、光熱費高騰──。飲食業界全体が直面するこの三重苦は、モール内のテナントにも容赦なく押し寄せています。
特にフードコート業態では、価格競争による薄利構造が続いており、値上げも難しい。
「家賃・人件費・原材料費の合計が月500万円を超える」ような店舗も存在し、収益構造として破綻寸前です。
- 消費者のライフスタイル変化
コロナ禍を機に、消費者の外食行動は大きく変わりました。
「混雑を避けたい」「一人で静かに食事したい」というニーズが増え、不特定多数が集まるフードコートは敬遠対象に。
また、中食や宅配サービスの品質向上により、「モールで食べる必要がなくなった」という価値観が定着しつつあります。
相次ぐ有名チェーンの撤退事例
この構造変化により、歴史ある飲食ブランドですら撤退を決断しています。
- ポッポ(イトーヨーカドー):かつて全国に100店舗以上を展開していたが、親会社の店舗閉鎖に伴い次々閉店。現在は30店舗を下回る水準に。
- スガキヤ:名古屋圏以外から次々と撤退。かつての北陸や関東は完全撤収済。
- ドムドムハンバーガー:ダイエー系列縮小により、ピーク時400店舗から数十店舗規模へ。
- 長田本庄軒(トリドール):関東圏からの事業撤退を実施。商業施設型からの方針転換。
これらの事例は、「フードコート業態に未来がない」という印象を与えかねません。実際、後継テナントが決まらないまま空きスペース化しているフロアも見られ、フードコートの収益性低下が深刻です。
商業施設側の打ち手と可能性
では、ショッピングセンター側はこの事態にどう対処しているのでしょうか。
現在進められている主な施策は以下のとおりです。
- テナント料の見直し・出店支援
固定家賃から売上連動型賃料への移行、初期費用の軽減、短期出店トライアル制度など。
出店ハードルを下げ、地元の個人飲食店を誘致する動きも出始めています。
- フードコートの再定義
「低価格・セルフサービス」から、「地域性・独自性・体験性」重視へ。
たとえば、ポップアップ店舗や期間限定シェフコラボなど、差別化された“食のイベント空間”としてのリブランディングが模索されています。
- デジタル活用による効率化
モバイルオーダー・キャッシュレス・無人受け取り・配膳ロボットの導入が進行中。
利便性と人件費削減の両立を狙ったスマートフードコート化が一部の先進施設では実装され始めています。
今後の方向性と経営者への示
この潮流は、飲食業界・商業施設業界ともに大きな岐路に立たされていることを意味します。
✅ 飲食事業者にとっては、フードコート型出店のリスク再評価が必要。利益構造を精査し、家賃や人件費に見合う売上が本当に見込めるか、立地と業態の適合性を再検討すべきタイミングです。
✅ モール運営側にとっては、「空間を埋める」から「目的を創る」場への転換が求められます。
飲食はもはや「人を留めるための装置」ではなく、「人を惹きつける原動力」になりうる領域です。
かつて“当たり前”だったフードコートの風景は、今や過去のものになりつつあります。
しかし、その再定義こそが、ポストコロナの商業施設戦略における重要な分岐点になるのは間違いありません。