第512話唐揚げブームの終焉:成功と失敗の要因を読み解く

数年前に社会現象ともいえる盛り上がりを見せた「唐揚げブーム」。一時は全国各地に唐揚げ専門店が乱立しましたが、2024年現在、その多くが閉店に追い込まれています。ここでは、唐揚げブームの背景と失敗の要因、そして生き残った店舗の共通点を分析し、飲食業界における教訓を探ります。

唐揚げ専門店が急増した背景

唐揚げブームが起きた理由は、①出店コストが安い、②参入障壁が低い、という点にあります。特別な調理スキルや大型設備を必要としないため、個人事業主や中小企業が気軽に参入できました。さらに、コロナ禍によるテイクアウト需要の高まりも後押ししました。

大手飲食チェーンもこのブームに参入し、多店舗展開を加速させました。例えば、ロードサイド型店舗や商業施設内の唐揚げ専門店が話題となり、一時はメディアでも頻繁に取り上げられました。しかし、この急速な拡大が市場の飽和を招き、現在の閉店ラッシュへとつながっています。

市場飽和と大手参入のリスク

唐揚げ専門店の倒産件数は、2023年に前年比7倍以上に急増。市場が飽和状態に陥り、多くの店舗が利益を出せなくなりました。その要因には、大手飲食チェーンの参入も大きく影響しています。一見、資本力がある大手のほうが有利に見えますが、実際には以下の問題を抱えていました。

  1. 高い間接コスト
    人件費や設備費が個人店に比べて高く、損益分岐点が上昇。収益性を圧迫しました。
  2. 専門店としてのアイデンティティ喪失
    ロードサイド型店舗などでは唐揚げ以外のメニューが増え、店舗がレストラン化。専門性が薄れました。
  3. 差別化の困難
    どの店舗も類似商品を提供するため、消費者にとって新鮮味がなくなりました。

「実用食」としての唐揚げの限界

唐揚げは家庭で作れる「実用食」に分類されます。うどんやラーメンと同様、日本人にとって親しみやすい料理ですが、家庭で手軽に作れる点が外食としての需要を抑制しています。また、スーパーやコンビニ、冷凍食品の唐揚げも非常に高品質で、外食の代替品として十分機能しています。

外食や中食市場では、「家庭で調理しにくい」「特別感がある」メニューが求められる傾向があります。この観点から、唐揚げは競合が多く、外食向きではないという現実が浮き彫りになっています。

生き残った店舗の共通点

厳しい環境下でも、成功している唐揚げ店にはいくつかの共通点があります。

  1. 老舗店舗の継続力
    ブーム前から営業を続けている店舗は、固定ファンを抱え、損益分岐点が低いため経営が安定しています。唐揚げをライフワークとするような店舗が、長期的に支持されています。
  2. 好立地の選定
    商店街や人通りの多い場所に出店し、偶然の来店を見込める店舗が強みを発揮しています。
  3. 商品の多様性と高品質
    唐揚げ以外にも、コロッケや焼き鳥などを提供する店舗や、醤油唐揚げや手羽先といったバリエーション豊富なメニューが人気です。特に、他店にはない味や調理法で差別化を図る店舗が成功しています。

ブームに便乗しない経営の重要性

唐揚げブームの一例から学べるのは、単に流行に乗るだけでは事業の継続性を確保できないということです。市場の参入障壁が低い業態は、競争が激化しやすく、利益を上げるには付加価値の提供が不可欠です。

新たなブームに乗る場合も、家庭で作れるかどうか、スーパーやコンビニと競合しないか、長期的な収益が見込めるかなどを徹底的に分析する必要があります。特に「実用食」としての特性を見極め、嗜好性や体験価値を高める戦略が求められるでしょう。

まとめ:飲食業界への教訓

唐揚げブームは、低コストでの参入が可能で一時的な成功を収めましたが、その反動で淘汰の波が押し寄せています。今後の飲食業界では、単なるブーム頼みではなく、消費者ニーズを捉えた差別化戦略と持続可能な経営が鍵となるでしょう。唐揚げ専門店の失敗と成功から学ぶことで、より強固なビジネスモデルを築くきっかけになるかもしれません。

 

 

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