第405話コロナ禍で変容する外食産業

11月24日のダイアモンドオンラインが伝えています。
コロナ禍という厳しい状況をくぐり抜けた外食産業が新しいステージへと変容する期待を感じるレポートです。外食の新しいフォーマットが登場します。抜粋してお送りします。

コロナ禍という逆境が外食を進化させる

逆境は産業を前進させます。フィルム写真の喪失が写真関連産業の進化を促したように、コロナ禍は他者との接触を前提とした従来型の外食産業に変容を迫りました。

外食産業における従前の業務では、コンテンツ(C:料理)、ロケーション(L:店舗)、オペレーション(O:調理/給仕)が不可分でした。しかし、コロナ禍でこのCLOは分離されました。

外食は店舗にシェフがいて、客の来店を“待つ”モデルであり、CLOの共存が前提でした。ところがコロナ禍によって、高級名店は高質冷凍食品へ進出しました。CLO分離のスタートです。

出来立ての料理を届けるフードデリバリーは、CLO分離を進めた“届ける”仕組みです。さらに推進したのはシェフの派遣サービスです。シェフ自体を“届ける”という究極の方策。

実店舗を持たないデリバリー専門業態「ゴーストレストラン」も生まれました。店舗を保有しないローコスト業態は新たな企業参入も促し、外食産業を活性させる一助となった。

 

CLO分離のさらなる進化調理工程のエンタメ化

コロナ禍で分離されたCLOは、さらなる進化を遂げようとしています。それを支えているのはアイデアや技術です。

CLO分離化の進展を志向するのは、シェフ派遣を営むシェアダイン社です。同社は、2021年9月にオンライン料理プログラム「シェアダインLIVEクッキング」を開始しました。現在は企業向けだが、将来的には消費者向けもありうる。

この仕組みでは、一流レストラン出身のシェフや、人気の管理栄養士が講師を勤め、参加者はLIVEで一緒に料理を作ります。使用される食材は前日に参加者に届けられるので、準備の手間も不要です。参加者は、擬似的な3Dプリンタの役割を果たします。

オペレーション(O:調理/給仕)という工程をエンターテイメント(エンタメ)化するという方向性も始まった。

米Creator(クリエーター)社は、調理工程のすべてをフードロボットが担うハンバーガーショップを展開している。同社では、ロボットの製造プロセスをあえて消費者と視覚的に共有し、人気を博している。

Creator社の仕組みでは、各消費者が自分好みにカスタマイズしたメニューを選択する。バンズはベルトコンベアを流れ、カット野菜や焼き立てのパティが盛り付けられていく。自分用のハンバーガーが出来上がる小劇場だ。

日本でも、バウムクーヘンの老舗ユーハイム社が、AI機能を搭載したバウムクーヘン自動焼成機「THEO(テオ)」を発表した。消費者はバウムクーヘンが焼き上がる過程を見学しながら、焼き立てのバウムクーヘンを購入できる。

ユーハイムは、バウムクーヘンの焼成工程自体を「コト(サービス)」として、B2B事業を開始し、百貨店、イベントスペース、カフェ、結婚式場などにTHEOを貸し出している。

調理というオペレーションをフードロボットが担うことは、生産性やローコストの視点で理解されがちだ。しかし発展的な解釈は、工程のエンタメ化だ。

米マクドナルドがメタバースITが外食の既存概念を壊す

米マクドナルドは2022年2月、メタバースに関連する12件の商標登録を申請し、仮想空間内のレストラン、コンサート、バーチャルグッズなどの領域に進出する。

仮想空間でハンバーガーを食しても、空腹は満たされない。米マクドナルドは外食企業にもかかわらず、食欲という人間の根源欲求から離れた領域へと、意欲的な挑戦を志向する。

VRや3Dフードプリンタが進化・普及すれば、仮想空間上での注文商品を自宅で食する世界が始まるかもしれない。いずれにしても米マクドナルドの挑戦は、外食の既存概念からの脱却であり、外食のバリューチェーンの一新が想定される。

モノがコトに転化外食産業は再定義へ

外食の業務フローであるCLOが分離されたことで、改めて外食産業の価値が再定義されようとしている。それは「モノ」の「コト」への転化だ。

肉、魚、ワイン、野菜などは、単なるモノだ。それに手を加え、料理という芸術に仕上げ、それを消費者に届ける過程で、モノはコトとなる。

単なるモノは、限界効用逓減の法則から逃れられない。一杯目のビールより、二杯目のビールの価値は下がる。

ところが、コトの価値は必ずしも減価しない。むしろ、体験したコトの価値を多くの人と共有する過程で、コトの価値は増大する。それが外食の本源的価値だ。

モノの限界効用は低減する。コトの限界効用は逓増する。

つながりを求める消費者求められる外食産業の大胆さ

コロナ禍を経て、消費者は人とのつながりの重要性をこれまで以上に痛感している。それは家族との関係に限らず、その他の人とのつながりも含めての重要性だ。

IT技術の発達に沿い、消費者は時短価値を追求する。そしてそれと同時に、人とのつながりをも渇望するという二律背反の欲求を保持している。

外食産業は、この両方を提供できる数少ない産業のひとつだ。コロナ禍では不遇をかこつことになったが、コロナ禍が一服した現在は反転攻勢の好機だ。

調理工程のエンタメ化を含め、新しい外食のフォーマットの萌芽が見られる。それを外食産業全体のビジネスモデル変革につなげる大胆さが、今求められている。

(フロンティア・マネジメント代表取締役 松岡真宏、フロンティア・マネジメント ディレクター 比嘉大輔)

 

 

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