第527話“美食の街”香港を席巻!スシロー・すき家・サイゼが掴んだ日本式外食の成功方程式
日本の存在感がかつてほど強くなくなったと感じられる昨今ですが、“美食の街”として名高い香港では、日本の外食チェーンが街の風景にしっかりと溶け込み、人気を博しています。その背景には、香港特有の外食文化や消費者ニーズを捉えた緻密な戦略がありそうです。
まず香港は住宅事情により「家で料理をせず、外で食事をする」文化が根付いているため、飲食店の数が非常に多いのが特徴です。そんな環境下でスシロー、すき家、サイゼリヤといった日本外食チェーンが存在感を放っています。
スシローは、香港の都市部から住宅エリアまで合わせて30店舗前後を展開。行列ができるほどの人気ぶりを見せています。価格帯は一皿2貫で約240〜440円と幅広く、SNS映えする皿盛りの寿司や丁寧なサービスが支持を集めている要因のひとつ。また、香港では「メニューの多様さ」や「好みに合わせて選べる」ことが重視されがちですが、回転寿司ならではの豊富なネタバリエーションが、そのニーズに合致しているのです。
すき家は、朝定食を約440円というリーズナブルな価格で提供し、“モーニング文化”を巧みに取り込みました。牛皿をつけても約640円というコスパの良さと「ジャパンクオリティ」の安心感が魅力です。サイゼリヤは「日式のイタリアンレストラン」として定着し、パスタだけで14種類という日本以上の品数でローカル需要に応えています。お手頃価格で洋食を楽しめる“ブルーオーシャン”の開拓に成功しているわけです。
また、ラーメンチェーンも人気が高く、一蘭や一風堂などが高級店として受け入れられています。価格は1杯1,800〜3,000円ほどと庶民的とはいえない水準ですが、デートにも使われる特別感がむしろ強みになっています。その一方で、熊本発祥の味千ラーメンは、早くから進出していたこともあり、ローカルチェーン並みの価格帯で“庶民派ラーメン”としてすっかり香港に根付き、メニューにも牛皿定食などのローカライズが見られます。
ローカライズといえば、香港の吉野家では独自メニューが豊富です。トマトベースの甘いスープに桜エビやコーンをのせたうどんや、ホットドッグの朝メニューなど、日本のイメージからは想像しにくい商品も。しかし、現地企業のフランチャイズ方式であるがゆえの大胆なアレンジが、逆に今の香港市場のニーズとやや合わなくなっている印象もあり、タイミングや消費傾向の変化で成功・不成功が左右される難しさがうかがえます。
香港は深センへのアクセスも良く、今後は中国南部への足掛かりとなる可能性を秘めたエリアです。日本の外食チェーンの成功要因は、仕入れや効率化を徹底しながら現地に合わせた商品展開を行う「真似されにくいノウハウ」にあるといえます。平成のデフレ期に培われた「安さ」「効率」「クオリティ」を両立させる仕組みが、海外でも通用しているわけです。今後、アジアを中心とした世界の街角で、日本の外食チェーンがさらなる存在感を示してくれることに期待が高まります。
デイリー新潮 4/3 渡辺広明氏参照