第583話「鰻の成瀬」売却が示す、急拡大フランチャイズの光と影
― 成長を支えるスーパーバイジングの重要性 ―
低価格うな重チェーンとして一気に知名度を高めた「鰻の成瀬」が、大きな転換点を迎えました。運営会社であるフランチャイズビジネスインキュベーション株式会社の株式58.0%を、AIフュージョンキャピタルグループ株式会社が取得し、子会社化したという内容です。
「鰻の成瀬」は、2022年の1号店開業以降、職人に依存しない標準化オペレーション、非一等立地でも成立する低コスト出店、短期間でのFC展開を武器に急成長してきました。短期間で数百店舗規模まで拡大したスピードは、外食フランチャイズ業界でも非常に注目される事例です。
しかし、今回の売却で私が最も注目すべきだと感じるのは、「なぜ急成長ブランドが、次の成長局面で外部資本を必要としたのか」という点です。
FCビジネスは、加盟店を増やすこと自体は比較的早くできます。魅力的な商品、低投資モデル、分かりやすいオペレーション、話題性のあるブランドがあれば、加盟希望者は集まります。特に「職人不要」「低価格」「省人化」「短期開業」といった要素は、加盟希望者にとって非常に魅力的です。
しかし、フランチャイズの本当の難しさは、店舗を増やした後に始まります。
店舗数が増えれば増えるほど、本部には「加盟店を支える力」が求められます。その中心にあるのが、スーパーバイジングです。
スーパーバイジングとは、単なる店舗巡回ではありません。売上や利益の状況を確認し、現場の課題を見つけ、改善策を一緒に考え、実行を支援し、結果を確認し、再び改善につなげる。本部と加盟店をつなぎ、ブランド価値を守るための極めて重要な機能です。
急拡大FCで最も起こりやすい問題は、このスーパーバイジング体制が店舗数の増加に追いつかなくなることです。
店舗が数十店舗の段階では、創業メンバーや本部幹部の目が現場に届きます。しかし、100店舗、200店舗、300店舗と増えていくと、現場で何が起きているのかを正確に把握することが難しくなります。売上が落ちている店、品質が乱れている店、接客レベルが下がっている店、加盟店オーナーが孤立している店があっても、早期に発見できなければ問題は拡大します。
ここに、急成長FCの脆弱性があります。
オペレーションマニュアルがあっても、SVが現場で活用できなければ意味がありません。開業研修があっても、開業後のフォローが弱ければ、加盟店は自己流になっていきます。商品力があっても、店舗ごとの品質管理が甘くなれば、顧客満足度は低下します。ブランド名が有名になっても、現場体験が悪ければ、評判は一気に崩れます。
私は長年、フランチャイズ本部の運営に関わってきましたが、FC本部の真の力は「加盟店を何店舗開業させたか」ではなく、「開業後に加盟店をどれだけ継続的に成功へ導けるか」で決まると考えています。
その意味で、スーパーバイジングはFC本部の生命線です。
SVは、本部の方針を一方的に伝えるだけの存在ではありません。また、加盟店の御用聞きでもありません。本部の理念・基準・戦略を現場に落とし込み、同時に現場の実態を本部に正しく戻す「双方向のパイプ役」です。
優れたSVは、数字を見ます。売上、客数、客単価、原価、人件費、利益率を確認します。しかし、それだけではありません。店舗の空気、スタッフの動き、顧客の反応、オーナーの悩み、店長の力量まで見ます。そして、「何が問題なのか」「どこから改善すべきか」「誰をどう育てるべきか」を判断します。
急拡大したFCでは、このSVの質と量が不足しやすくなります。店舗開発のスピードに比べて、SV人材の育成には時間がかかるからです。加盟店を募集する営業人材は比較的早く増やせても、現場を見抜き、数字を読み、改善を伴走できるSVは一朝一夕には育ちません。
ここを軽視すると、店舗数は増えても、本部の管理能力が追いつかず、結果として閉店、収益悪化、加盟店不満、ブランド毀損につながります。
「鰻の成瀬」の売却を、単なる企業買収として見るのではなく、急拡大FCにおける本部機能強化の必要性として見るべきだと思います。外部資本が入り、AIやDX、マーケティング、金融ネットワークを活用することで、次の成長ステージに進む可能性は十分あります。しかし、その中核にスーパーバイジング体制の再構築がなければ、真の意味での再成長は難しいでしょう。
FCビジネスは、加盟店を増やすビジネスではありません。加盟店を成功させ続けるビジネスです。
そのためには、商品力、ブランド力、開発力に加えて、現場を支えるSV力が必要です。とくに飲食業では、日々の営業品質がブランドそのものです。お客様は本部の戦略を見るのではなく、目の前の一店舗を見てブランドを判断します。
今回の「鰻の成瀬」売却は、これからFC化を目指す経営者にとって、非常に大きな教訓を示しています。
急成長は魅力です。しかし、成長のスピードに本部体制が追いつかなければ、その成長はリスクにもなります。FC本部に必要なのは、加盟店開発力だけではありません。教育力、数値管理力、品質管理力、そして何よりスーパーバイジング力です。
店舗数を増やす前に、増えた店舗を支える仕組みをつくること。
加盟店を集める前に、加盟店を成功させる体制を整えること。
これこそが、これからのフランチャイズ本部に求められる最大の課題ではないでしょうか。
